純資産額法による清算価値算出は、貸借対照表の分析が中心です。
貸借対照表は、ある一時点における企業の財政状態を、一定の会計ルールに則って数値化しているものです。
形式的には、貸借対照表に記載されている資産を現金化して、そこから支払うべき負債を差し引くことで、清算価値、すなわち、株主が得られる残余財産を計算します。
| 資産の部 10000 |
負債の部 6000 |
| 資本(純資産)の部 4000 |
上記のような貸借対照表があったとして、貸借対照表の数値をそのまま信じるのであれば、企業価値は4000、つまり、資本(純資産)の部分になります。
これに対し、株式市場での時価総額(=株価×発行済株式数)が3000であれば、企業価値に比べて株価は割安だと判断することができます。
ちなみに、この場合、PBR0.75倍(=3000÷4000)ともいえます。
それでは、資産面から見た企業価値に対する割安度を表す尺度として、PBRだけを見れば十分かというとそうではありません。
なぜならば、現行の会計制度下における貸借対照表では、そこに記載されている資産と負債の数値が、必ずしも事業を清算した時の金銭的価値を表しているとは限らないからです。
しかしながら、純資産額法に基づく企業価値を算出するにあたっては、実際に欲しいのは「資産と負債の換金価値を表す貸借対照表」(清算貸借対照表)なのです。
そこで、公表されている貸借対照表を、いくらか修正する必要が出てきます。
いくつかの勘定科目を例に、現行の会計制度下における貸借対照表と清算貸借対照表の違いを見ていきます。
【資産】
(1)現金・預金
貸借対照表と清算貸借対照表の数値は、通常、一致します。
(2)有価証券
時価評価されている有価証券とそうでない有価証券があります。時価評価されていない有価証券は、貸借対照表と清算貸借対照表の数値が一致しません。
(3)売掛金
貸借対照表では貸し倒れの可能性を「貸倒引当金」として見積もっていますが、それが実際の貸し倒れと一致するとは限りません。
(4)棚卸資産
原則として、取得原価主義に基づいて記載されていますので、必ずしも現実の換金価値を表したものにはなっているとは限りません。
(5)土地
原則として、取得原価主義に基づいて記載されていますので、土地の再評価という例外的な会計処理をしていない限り、必ずしも現実の換金価値を表したものになっているとは限りません。
(6)償却有形固定資産(建物、車両、備品など)
原則として、取得原価主義に加えて一定の会計ルールに基づいて減価償却をしていますので、取得原価から減価償却累計額を控除した数値が、必ずしも現実の換金価値を表したものになっているとは限りません。
(7)無形固定資産
特許権や営業権のような無形固定資産は、事業を継続していてこそ価値があるわけですから、事業を清算すると無価値(あるいは、低い価値)になるという可能性があります。また、電話加入権やソフトウエアについても必ずしも現実の換金価値を表したものになっているとは限りません。
(8)投資等
投資等の中身はさまざまです。ただ、以下のような要因から、必ずしも現実の換金価値を表したものになっているとは限りません。
※子会社・関連会社の評価
※差し出している敷金等の返却率
※貸付金などの貸し倒れの可能性
※破綻債権・更正債権の回収率
(9)繰延税金資産
繰延税金資産自体が見積もりの数値であること、および、事業の清算時に支払う(あるいは、還付される)税金があると、必ずしも現実の換金価値を表すものになっているとは限りません。また、繰延税金負債があれば、それと相殺されます。
【負債】
(1)買掛金・未払金
支払の義務なので、貸借対照表と清算貸借対照表の数値は、通常、一致します。
(2)未払法人税・未払消費税など
支払の義務なので、貸借対照表と清算貸借対照表の数値は、通常、一致しますが、事業の清算時に支払う(あるいは、還付される)税金があると、一致しない可能性があります。
(3)借入金(短期借入金・長期借入金)
支払の義務なので、貸借対照表と清算貸借対照表の数値は、通常、一致します。
(4)賞与引当金・退職給付引当金
退職給付会計に基づく見積もりの数値に過ぎないなので、事業の清算をするという話になれば、実際に支払われる数値は大きく異なります。財政状態に余裕がなければ、退職金が支払われない可能性もありますし、逆に、財政状態に余裕があれば、割増退職金を支払う可能性もあります。賞与引当金も同様に、事業の清算という特別な事態に対して、実際の支払額が変動する可能性があります。
(5)繰延税金負債
繰延税金負債自体が見積もりの数値であること、および、事業の清算時に支払う(あるいは、還付される)税金があると、必ずしも現実の換金価値を表すものになっているとは限りません。また、繰延税金資産があれば、それと相殺されます。
このような修正を基に清算貸借対照表を作成し、その貸借対照表に基づく清算価値を算出したものが、株主が貰える残余財産となります。