ここまで、清算価値の算出方法を説明しました。
清算価値に対して株価が割安であるということは、理論上は、「今すぐに事業を清算すると、リスクなしで株主はリターンを得られる」ということになります。
しかし、現実にはこの理論どおりにいくことは殆どありません。確かに、リスクは低いかもしれませんが、リスクがないわけではありません。
このような企業が割安で放置されている理由は何か?その理由を突き止めて、その状況が改善される可能性があるかどうかを考えた上で、投資すべきかどうかを判断しなければなりません。
割安に放置されている理由として、以下のような可能性が考えられます。
(1)将来の収益力と経営者の資本政策将来の収益力に問題があることから、株主から見た経済的合理性だけを考えると、今すぐに事業を清算したほうが良いのではないかと思う企業でさえ、何らかのしがらみ(株主以外の利益や社会的意義、あるいは、見栄や保身)から、経営者が事業の継続を選択をすることはあり得ます。
外部株主が経営に無関心で議決権行使をしない状況、あるいは、外部株主が議決権行使を行って事業の清算という決議ができない状況(例えば、オーナーが持分を50%以上握っているなど)であれば、そうなってしまう可能性は高いのです。
また、収益力が乏しいにも関わらず、資本政策に無知であることにより(あるいは、外部株主への利益還元を意図的に行わないことにより)、これまで蓄積された内部留保利益を株主に還元しようとしない経営者もいます。このような事情から、今すぐ事業を清算すれば得られるかもしれない残余財産を、現実には受け取れない可能性があるのです。
したがって、清算価値に対して割安な企業に投資すべきかどうかを判断するにあたっては、将来の収益力や経営者の資本政策を完全に無視することは出来ません。
つまり、株価が清算価値並みに売られているということは、将来の収益力や経営者の資本政策に期待ができない可能性があることを、まず考えなければなりません。ここで、日本ファイリングのケースを見てみます。以下は、2006年新春号の四季報から業績欄を抜粋したものです。
ここ数年、売上が減少傾向であり、また、赤字が続いていることが分かります。
事業の清算が賢明である可能性がありながらも、実際には事業の継続を選択しており、その結果、赤字を垂れ流し続けていることを市場参加者は嫌っているのかもしれません。
(2)市場参加者の問題いわゆる資産株というのは、通常時は人気がありませんから、企業価値と価格のギャップが解消されるための何らかの兆候(カタリスト)がなければ、なかなか良い方向に株価は動いてくれません。
市場参加者の気まぐれに賭けるというだけでは、塩漬け株の状態が何年も続くという可能性があります。明確な安全域をとっていることから、実損を蒙る可能性は低いかも知れませんが、機会損失も含めると資本効率が著しく低下する可能性はあります。
そこで、このような企業の株価が上昇するきっかけとなり得る要素をここで列挙しておきます。
割安で放置されている理由を踏まえた上で、投資することが重要です。上記のような株価が上昇するきっかけとなる要素があれば、あとは時間が価値と価格のギャップを解消してくれるでしょう。